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貸金業の規制緩和に反対する会長声明

                         貸金業の規制緩和に反対する会長声明

                                                      平成26年7月24日
                                                      広島司法書士会 会長 末廣 浩一郎

 <会長声明>

現在、議員立法による国会提出が検討されている貸金業法の一部改正による規制緩和は、多重債務問題に対応することを求める全国43の都道府県議会と1136の市町村議会による決議の採択、このような国民の声を受けて成立した平成18年の貸金業法の一部改正、そしてこれに基づく多重債務問題への真摯な取り組みによる着実な成果を根底より損なうものであり、これに強く反対する。
また、健全な社会の実現のため、利息制限法上限金利の引き下げや社会保障制度の充実を強く要望する。

<理由>

報道によれば、自民党は「小口金融市場に関する小委員会」において貸金業法の見直しを検討しており、今秋の臨時国会に議員立法として同法改正案提出を目指しているとのことである。
自民党の改正案概要によれば、一定の人的・経済的規模及び研修体制の整備並びに過去に業務禁止等の処分を受けていないこと等の要件を満たす貸金業者を「認可貸金業者」と認定し、認可貸金業者には利息制限法を超える「年29.2%」による貸付を認め、また、個人の総借入額を年収の3分の1以内に制限する「総量規制」からも除外することとされている。
また、自民党がこの改正案の検討を始めた理由として、銀行融資を受けにくい中小零細業者や個人事業主が一時的な資金を消費者金融から借りにくくなっていると判断したことをあげている。

しかし、現在の貸金業法は、多重債務による生活の破綻や自己破産、経済的困窮を原因とする自殺の急増など、当時年々深刻さを増していた多重債務問題への対応を求める全国43の都道府県議会と1136の市町村議会による決議の採択を受けて、平成18年(2006年)12月に「貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」(平成18年法律第115号)として、当時の第1次安倍内閣のもとで与野党全会一致により成立したものである。同法は、上限金利の引き下げ、返済能力を超えた借り入れを制限する総量規制の導入など、多重債務問題に効果的に対応する法律であり、同法に基づく高金利規制・総量規制は平成22年(2010年)6月18日に完全施行された。同法成立後は、官民を挙げた各種の多重債務問題改善プログラムが全国で実施され、多重債務対策は大きな成果を上げてきた。例えば、警察庁の統計によれば、多重債務を理由とする自殺者数は、平成19年の1973名が平成25年には688名に減少しており、同様に司法統計による自己破産事件の申立件数も、平成18年の174,861件が平成24年には92,552件に減少している。

このような経過があるにもかかわらず、頭書のような貸金業の規制緩和を行うことは、これまでの取り組みの成果を根底より損なうものであり、これを許すことはできない。

そもそも、自民党の改正案に「認可貸金業者」の要件としてあげられている各要件は、法遵守を掲げる企業にとっては当然ともいえるものであり、これらの要件を満たすことは多重債務者急増への予防策とは関係がない。

また、現在の低金利社会からすれば、利息制限法に定める年15%~年20%の金利ですら高金利なのであって、年29.2%もの金利は、健全な中小零細企業や個人事業者であってもその経営を破綻させる水準であるとの報告すらある。資金繰りのため借入をせざるを得ない者に対して、このような高金利での借入を許容することは、より過酷な経済状況を招くことにほかならない。

さらに、この改正案によれば、中小零細企業・個人事業主のみならず、給与所得者等への貸付に対しても原則年29.2%の金利が適用される可能性があるが、現在の日本は、年収200万円以下の給与所得者は約1089万9000人で給与所得者の23.9%を占め(国税庁/2012年民間給与実態統計調査)、また、貯蓄ゼロ世帯が31%(日本銀行/2013年金融広報中央委員会調べ)も存在している。このような状況において頭書のような貸金業の規制緩和を行うことは、再び多重債務者を増加させ、過酷な取り立てによる家庭の崩壊や自殺という問題を再燃させかねないものである。

中小零細企業や個人事業主の資金需要に対しては、民間の貸金業者からの高金利による借入ではなく、セーフティネット貸付など低金利な公的融資や社会保障を充実させ、高利に頼らない健全な社会の実現を目指すべきである。
また、総量規制に対しては、既に現在の貸金業法においても個人事業主に対する例外規定が定められており、認可貸金業者について総量規制を除外するべき必然性は存在しない。

以上のとおり、これまで多重債務問題に取り組んできた当会は、貸金業法の規制緩和に対して、これに強く反対する。

また、健全な社会の実現のため、利息制限法上限金利の引き下げや社会保障制度の充実を強く要望するものである。

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