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「法定相続情報証明制度」(仮称)に反対する会長声明

 本年7月5日、法務省民事局より「法定相続情報証明制度」(仮称)の新設について報道発表された。
 本制度は、いわゆる所有者不明土地問題や空き家問題を生じさせる大きな要因の一つとされる相続登記未了問題に対し、相続登記を促進するための新たな制度であるとしている。
 具体的には、相続人が登記所(法務局)に対し、各役所で収集した被相続人の戸籍関係書類等一式とこれに基づき作成された法定相続情報(家系図のような絵)を提出すると、登記官がこれに証明文を付して法定相続情報の写し(以下、「法定相続情報の写し」という。)を交付するものである。
 しかし、本制度はその目的を「相続登記の促進」としながらも、登記所における相続登記申請は要件ではなく、窓口にて「相続登記の申請を促す。」のみであり、また、相続登記をする不動産がない場合も利用できるとしており、本制度導入が、その目的達成につながらないことは明らかである。
 また、法定相続情報の写しは、金融機関における預金の払戻し等、他の相続手続の提出書類に使うことも可能としているが、現状において、金融機関の他、各相続手続において戸籍関係書類一式は全て原本還付されており、一度揃えれば相続人において改めて収集する必要はない。相続手続において煩雑で手間がかかるのは、「各役所での被相続人の戸籍関係書類一式の収集」である。
 本制度の導入により最も利益を受けるのは、預金等の解約時に戸籍関係書類一式の確認事務作業が不要となる金融機関等であり、こうした事業者の管理コストの削減の為に、税金を投入することは不適切と言わざるをえない。
 また、登記所の統廃合が進んだ現在において、法定相続情報の写しが各相続手続において実務上要求されることとなれば、地元の金融機関の預金の相続手続きをするために、遠方の登記所にまで出向き、交付を受けなければならなくなる。
 さらに、法定相続情報の写しは「提出された当時の戸籍関係書類等一式」に基づき発行されるところ、戸籍謄本に記載のない相続欠格・相続放棄等は反映されず、また、法定相続情報の写しにも当然有効期限があるものと考えられるが、戸籍謄本等の有効期限を経過した場合の当該法定相続情報の写しが有効であるのか等、相続手続実務において混乱が生じる恐れがある。
 法務省民事局は、平成29年度中に本制度を導入するとしているが、本制度には、少なくとも上記の問題がある。
 当会は、登記手続きを始めとする相続手続に関わる職能団体として、その制度目的に合致しない本制度が原案のまま導入されることに断固反対し、法務省民事局に対し、仮に本制度導入の検討を継続するのであれば、国民に安心安全なものであり、また、相続登記の促進に効果が期待できる制度とするよう、抜本的な変更を強く求めるものである。

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